ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵 |
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第二圏に入って行ったダンテらは、そこで二人の人々を見る。フランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊である。フランチェスカはラヴェンナの城主の娘であったが、隣国の城主ジャンティオット・マラテスタと政略結婚させられた。この際、醜男であったジャンティオットは、結婚が成立しないことを恐れて、色男であった弟のパオロを替え玉に立てた。フランチェスカとパオロはお互いに一目惚れして、愛し合うようになった。 その後ジャンティオットが正式の夫としてフランチェスコを妻にしたのであるが、互いに忘れられないパオロとフランチェスカは密会を重ねた。それを知ったジャンティオットは、二人とも殺してしまったのである。 この場面では、フランチェスカもパオロも自制心を失って不倫の愛に溺れたものとして、否定的に語られているわけである。なお、フランチェスカは、ダンテの同時代の女性であるばかりか、彼の実の叔母でもあったという。 我曰ふ、詩人よ、願はくはわれかのふたりに物言はん、彼等相連れてゆき、いと輕く風に乘るに似たり かれ我に、かれらのなほ我等に近づく時をみさだめ、彼等を導く戀によりて請ふべし、さらば來らむ 風彼等をこなたに靡かしゝとき、われはたゞちに聲をいだして、あはれなやめる魂等よ、彼もし拒まずば來りて我等に物言へといふ たとへば鳩の、願ひに誘はれ、そのつよき翼をたかめ、おのが意に身を負はせて空をわたり、たのしき巣にむかふが如く 情ある叫びの力つよければ、かれらはディドの群を離れ魔性の空をわたりて我等にむかへり あゝやさしく心あたゝかく、世を紅に染めし我等をもかへりみ、暗闇の空をわけつつゆく人よ 汝我等の大いなる禍ひをあはれむにより、宇宙の王若し友ならば、汝のためにわれら平和をいのらんものを すべて汝が聞きまたかたらんとおもふことは我等汝等にきゝまた語らむ、風かく我等のために默す間に わが生れし邑は海のほとり、ポーその從者らと平和を求めてくだるところにあり いちはやく雅心をとらふる戀は、美しきわが身によりて彼を捉へき、かくてわれこの身を奪はる、そのさまおもふだにくるし 戀しき人に戀せしめではやまざる戀は、彼の慕はしきによりていと強く我をとらへき、されば見給ふ如く今猶我を棄つることなし 戀は我等を一の死にみちびきぬ、我等の生命を斷てる者をばカイーナ待つなり、これらの語を彼等われらに送りき(地獄篇第五曲から、山川丙三郎訳) 絵は、倒れて横たわっているのがフランチェスカ・ダ・リミニ、それを見ながら呆然と立ち尽くしているのがパオロ・マラテスタの亡霊と思われる。チューブのようなもののなかにぎっしりと詰まった人々は、愛欲に溺れたものたちの亡霊であろう。 |
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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2016 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |