ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵 |
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天使は怪物を一喝して門をあけさせると、彼らには何もいわずに引き返していった。さながら他に急ぎの用事があるように。そこでダンテとヴィルジリオは、ディーテの町に中へと入って行く。 そこには荒涼とした墓地が広がっていた。そこに埋められているのは、あらゆる宗派の異端者たちだった。 あゝその憤りいかばかりぞや、かれ門にゆき、支ふる者なければ一の小さき杖をもてこれをひらけり かくて恐ろしき閾の上よりいふ、あゝ天を逐はれし者等よ、卑しき族よ、汝等のやどす慢心はいづこよりぞ その目的削がるゝことなく、かつしばしば汝等の苦患を増せる天意に對ひ足を擧ぐるは何故ぞ 命運に逆ふ何の益ぞ、汝等のチェルベロいまなほこれがため頤と喉に毛なきを思はずや かくて彼我等に何の言だになく汚れし路をかへりゆき、そのさまさながらほかの思ひに責め刺され おのが前なる者をおもふに暇なき人のごとくなりき、聖語を聞いて心安く、我等足を邑のかたにすゝめ 戰はずして内に入りにき、我はまたかゝる砦の内なるさまのいかなるやをみんことをねがひ たゞちに目をわがあたりに投ぐれば、四方に一の大なる廣場ありて苦患きびしき苛責を滿たせり ローダーノの水澱むアルリ、またはイタリアを閉してその境を洗ふカルナーロ近きポーラには 多くの墓ありて地に平らかなる處なし、こゝもまた墓のためにすべてかくの如く、たゞ異なるはそのさまいよいよ苦きのみ そは多くの焔墓の間に散在して全くこれを燒けばなり、げにいかなる技工といへどもこれより赤くは鐡を燒くを需めぬなるべし 蓋は悉く上げられ幸なき者苦しむ者にふさはしきはげしき歎聲内より起れり 我、師よ、これらの墓の中に葬られ、たゞ憂ひの歎息を洩すのみなるこれらの民は何なりや 彼我に、邪宗の長等その各流の宗徒とともにこゝにあるなり、またこれらの墓の中には汝の思ふよりも多くの荷あり みな類にわかちて葬られ、塚の熱度一樣ならず、かくいひて右にむかへり 我等は苛責と高壘の間を過ぎぬ(地獄篇第九曲から、山川丙三郎訳) 絵は、ディーテの町の門を開ける天使と、それを恐る恐る見守るダンテとヴィルジリオを描く。天使の羽がトンボのそれを思わせるのが面白い。 |
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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2016 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |