ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵
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ファリナータと会話するダンテ:ブレイクの「神曲」への挿絵



ダンテらが墓場のあたりを歩いていると、一人の男呼び止められる。その男はダンテと同じ故郷の者フィレンツェ人であり、ダンテにとっては敵の党派の一員ファリナータであった。彼らの党派はダンテの党派たるグェルフィ党を二度にわたってフィレンツェから追放したのであった。

ダンテがファリナータと会話している最中に、墓の中から老人の亡霊が現れる。ダンテの親友だったグイド・カヴァルカンティの父親である。父親はダンテに向って自分の息子の居場所を聞いたりするが、ダンテにはその言を聞いてやるほどの余裕はない。父親はすごすごと墓の中に戻って行くのだった。

 恭しくかたりつゝ生きながら火の都を過ぎゆくトスカーナ人よ、ねがはくはこの處にとゞまれ
 汝は汝の言によりて尊きわが郷土(恐らくはわが虐げし)の生れなるをしらしむ
 この聲ゆくりなく一の墓より出でければ、我はおそれてなほ少しくわが導者に近づけり
 彼我に曰ひけるは、汝何をなすや、ふりかへりてかしこに立てるファーリナータを見よ、その腰より上ことごとくあらはる
 我はすでに目をかれの目にそゝぎゐたるに、かれはその胸と額をもたげ起してあたかもいたく地獄を嘲るに似たりき
 この時導者は汝の言を明かならしめよといひ、臆せず弛なき手をもて我を墓の間におしやりぬ
 われ彼の墓の邊いたれるとき、彼少しく我を見てさて蔑視ごとく問ひていひけるは、汝の祖先は誰なりや
 我は從はんことをねがひてかくさず、一切をかれにうちあけしに、少しく眉をあげて 
 いひけるは、かれらは我、わが祖先、またわが黨與の兇猛なる敵なりき、さればわれ兩度かれらを散らせることあり
 我答へて彼に曰ひけるは、かれら逐はれしかども前にも後にも四方より歸れり、されど汝の徒善くこの術を習はざりき
 この時開ける口より一の魂これとならびて頤まであらはせり、思ふにかれは膝にて立てるなるべし
 我とともにある人ありや否やをみんとねがへる如くわが身のあたりをながめたりしが、疑ひ全く盡くるにおよびて
 泣きて曰ひけるは、汝若し才高きによりてこの失明の獄をめぐりゆくをえば、わが兒はいづこにありや、かれ何ぞ汝と共にあらざる
 我彼に、われ自ら來れるにあらず、かしこに待つ者我を導きてこゝをめぐらしむ、恐らくはかれは汝のグイードの心に侮りし者ならん
 かれの言と刑罰の状とは既にその名を我に讀ましめ、わが答かく全きをえしなりき
 かれ忽ち起きあがり叫びていひけるは、汝何ぞ「りし」といへるや、彼猶生くるにあらざるか、麗しき光はその目を射ざるか
 わがためらひてとみに答へざりしをみ、かれは再び仰きたふれ、またあらはれいづることなかりき
 されど我に請ひて止まらしめし心大いなる者、顏をも變へず頸をも動かさずまた身をも曲げざりき(地獄篇第十曲から、山川丙三郎訳)

上の絵の中で、膝を立てているのがファリナータ、地中から顔を出しているのがカヴァルカンティの父親。





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