ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵
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自殺者を狩る猟犬たち:ブレイクの「神曲」への挿絵



ダンテらがヴィーニャの告白を聞いているそこへ、けたたましい声と共に、二人の亡霊が犬に追われて近づいてきた。そのうちの一人はすばやく茨と合体したが、もう一人は犬に身を引き裂かれ、バラバラにされてしまった。

茨に変身したのは、有るフィレンツェの人。この人も、自殺をしたことで、この森へと追われてきたのであった。

 幹のなほ我等にいふことあらんを思ひて我等心をとめゐたるに、この時さわがしき物音起り、我等の驚かされしこと
 さながら野猪と獵犬と己が立處にむかふをさとり、獸と枝との高き響きを聞くものの如くなりき
 見よ、左に裸なる掻き裂かれたるふたりの者あり、あらゆる森のしげみをおしわけ、逃げわしることいとはやし
 さきの者、いざ疾く、死よ、疾くと叫ぶに、ほかのひとりは己がおそくして及ばざるをおもひ、ラーノ、トッポの試藝に
 汝の脛はかく輕くはあらざりしをとさけび、呼吸のせまれる故にやありけむ、その身をとある柴木と一團になしぬ
 後の方には飽くことなく、走ること鏈を離れし獵犬にひとしき黒き牝犬林に滿ち
 かの潛める者に齒をくだしてこれを刻み、後そのいたましき身を持ち行けり 
 この時導者わが手をとりて我をかの柴木のほとりにつれゆけるに、血汐滴たる折際より空しく歎きていひけるは
 あゝジャーコモ・ダ・サント・アンドレーアよ、我を防禦して汝に何の益かありし、汝罪の世を送れりとて我身に何の咎あらんや
 師その傍にとゞまりていひけるは、かく多くの折際より血と共に憂ひの詞をはく汝は誰なりしや
 彼我等に、あゝこゝに來りてわが小枝を我よりとりはなてる恥づべき虐をみし魂等よ
 それらを幸なき柴木のもとにあつめよ、我は最初の守護の神をバーティスタに變へし邑の者なりき、かれこれがために
 その術をもて常にこの邑を憂へしむ、もしその名殘のいまなほアルノの渡りにとゞまるあらずば
 アッティラが殘せる灰の上に再びこの邑を建てたる邑人の勞苦は空しかりしなるべし
 我はわが家をわが絞臺としき ((地獄篇第十三曲から、山川丙三郎訳))

絵は、犬に追われる二人の裸物を描く。二人のうち先頭の者が犬にかまれて肉を引き裂かれる。樹上の枝にはフクロウのような姿をした人間どもが、その様子を見守っている。





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