ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵 |
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ダンテとヴィルジリオが、橋を渡って第二の嚢に入ると、堤の眼下には糞尿で満たされた溝が広がり、そこに大勢の亡霊がうごめいていた。彼らは皆、阿諛追従の罪によってここに落されてきたのだった。その一人アレッショ・インテルミネにダンテが声をかけると、彼は自分の舌の災いによってここに落される羽目になったと認めた。また、一人の女の姿をヴィルジリオが指さし、この女は売女であったが、どの客にも心にもないお世辞をいったことで、ここに落されたのだと語る。 我等は此時細路第二の堤と交叉し之を次の弓門の橋脚となせるところにいたれるに 次の嚢の民の呻吟く聲、あらき氣息、また掌にて身をうつ音きこえぬ たちのぼる惡氣岸に粘き、黴となりてこれをおほひ、目を攻めまた鼻を攻む 底は深く窪みたれば石橋のいと高き處なる弓門の頂に登らではいづこにゆくもわきがたし 我等すなはちこゝにいたりて見下せるに、濠の中には民ありて糞に浸れり、こは人の厠より流れしものゝごとくなりき われ目をもてかなたをうかゞふ間、そのひとり頭いたく糞によごれて緇素を判ち難きものを見き 彼我を責めて曰ひけるは、汝何ぞ穢れし我侶を措きて我をのみかく貪り見るや、我彼に、他に非ずわが記憶に誤りなくば 我は汝を髮乾ける日に見しことあり、汝はルッカのアレッショ・インテルミネイなり、この故にわれ特に目を汝にとゞむ この時頂を打ちて彼、我をかく深く沈めしものは諂なりき、わが舌これに飽きしことなければなり こゝに導者我に曰ひけるは、さらに少しく前を望み、身穢れ髮亂れかしこに不淨の爪もて おのが身を掻きたちまちうづくまりたちまち立ついやしき女の顏を見よ これ遊女タイデなり、いたく心に適へりやと問へる馴染の客に答へて、げにあやしくとこそといへるはかれなりき さて我等の目これをもて足れりとすべし(地獄篇第十八歌から、山川丙三郎訳) 絵は、糞尿に満ちた溝を見下すダンテとヴィルジリオ。二人ともひどい悪臭に辟易して、鼻を衣の袖で蔽っている。 |
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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2016 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |