ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵 |
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ダンテとヴィルジリオは続いて第五嚢へ下りてゆく。そこは、生前汚職で私欲を肥やした者どもが落されてきたところ。彼らは悪鬼によってここまで運ばれ、煮えたぎる瀝青のプールに放り込まれるのである。二人がそのプールの縁に立ったところ、一人の悪鬼が人間を肩に担ぎあげながらやって来て、その人間を煮えたぎる瀝青の中に投げ込んだ。 このほかわが喜曲の歌ふを好まざる事どもかたりつゝ、かく橋より橋にゆき、頂にいたるにおよびて 我等はマーレボルジェなる次の罅裂と次の空しき歎きを見んとてとゞまれり、我見しにこの處あやしく暗かりき たとへば冬の日ヴェネーツィア人の船廠に、健かならぬ船を塗替へんとて、粘き脂煮ゆるごとく (こは彼等海に浮ぶをえざるによる、すなはち之に代へてひとりは新に船を造り、ひとりはあまたの旅をかさねし船の側を塞ぎ ひとりは舳ひとりは艫に釘うち、彼櫂を造り是綱を縒り、ひとりは大小の帆を繕ふ) 下には濃き脂火によらず神の技によりて煮え、岸いたるところこれに塗れぬ 我之を見れども、煮られて浮ぶ泡の外には一としてその中に見ゆる物なく、たゞこの脂の一面に膨れいでゝはまた引縮むさまをみるのみ われ目を凝らして見おろしゐたるに、あれ見よあれ見よといひてわが導者わが立處より我をひきよす しきりに見んことをねがへども、そは逃げて避くべきものにしあれば、俄におそれていきほひ挫け 見るまも足を止めざる人の如く、われ身を返して後方をみしに石橋をわたりてはせきたれる一の黒き鬼ありき あゝその姿猛きこといかばかりぞや、翼ひらかれ足かろきその身の振舞あらあらしきこといかばかりぞや 尖りて高きその肩には、ひとりの罪人の腰を載せ、その足頸をかたく握れり 橋の上よりいふ、あゝマーレブランケよ、見よ聖チタのアンチアンの一人を、汝等彼を沈むべし、我は再びかの邑に歸らん かの處には我よくかゝる者を備へおきたり、さればボンツーロの他、汚吏ならぬものなく、否も錢のために然りに代へらる かくいひて彼を投げいれ堅き石橋をわたりてかへれり、繋はなれし番犬の盜人を追ふもかく疾》からじ ここで聖チタのアンチアンと呼ばれているのは、ルッカの執政官のこと。この執政官はマルティーノ・ボッタイオだとされる。彼の派手な汚職ぶりは、生前から非常に有名だったという。 絵には、執政官を担いだ悪鬼と、彼の仲間の鬼たちが描かれている。左手では、ダンテとヴィルジリオが悪鬼たちの様子を見つめている。 |
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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2016 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |