ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵
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岩場の難路(二):ダンテの「神曲」への挿絵



彼らが頂上と思ったところは、まだ第七の嚢ではなかった。そこで更に先へ進んで行くと、はるか下の方から、不気味なうめき声のようなものが聞えてくる。これこそが、第七の嚢に落されたものどもの声なのであろう。ふたりはその声のする方向へ、更に進んで行く。

 師曰ひけるは、今より後汝つとめて怠慢に勝たざるべからず、夫れ軟毛の上に坐し、衾の下に臥してしかも美名をうるものはなし 
 人これをえず徒にその生命を終らば地上に殘すおのが記念はたゞ空の烟水の泡抹のみ 
 此故に起きよ、萬の戰ひに勝つ魂もし重き肉體と共になやみくづほるゝにあらずば之をもて喘に勝て 
 是よりも長き段のなは上るべきあり、これらを離るゝのみにて足らず、汝わが言をさとらばその益を失ふなかれ 
 我乃ち身を起し、くるしき呼吸をおしかくしていひけるは、願はくは行け、身は強く心は堅し 
 我等石橋を渡りて進むに、このわたりの路岩多く狹く艱くはるかにさきのものよりも嶮し 
 我はよわみをみせざらんため語りつゝあゆみゐたるに、忽ち次の濠の中より語を成すにいたらざる一の聲いでぬ 
 この時我は既にこゝにかゝれる弓門の頂にありしかども、その何をいへるやをしらず、されど語れるものは怒りを起せし如くなりき 
 我は俯きたりき、されど闇のために生ける目底にゆくをえざれば、すなはち我、師よ請ふ次の堤にいたれ 
 しかして我等石垣をくだらん、そはこゝにてはわれ聞けどもさとらず、見れども認むるものなければなり 
 彼曰ふ、行ふの外我に答なし、正しき願ひには所爲たゞ默して從ふべきなり(地獄篇第二十四曲から、山川丙三郎訳) 

絵は、難路の途中に立つ二人。下の方から声が聞こえてくるが、声を出す者の姿は見えない。




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