ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵
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モスカとベルトラム:ブレイクの「神曲」への挿絵



マホメットが去った後、両腕の先を切り取られた者が現れる。彼はモスカと言って、トスカーナ人の間に不和をもたらした咎でここに落されたという。続いて自分の首を高く抱え上げた者が現れる。こちらはベルトラム・ダル・ボルニオと言って、父と子を互いに仲たがいさせた咎でここに落されてきた。

 こゝにひとり手を二ともに斷たれしもの、殘りの腕を暗闇のさにさゝげて顏を血に汚し
 さけびていふ、汝また幸なくも事行はれて輙ち成るといへるモスカをおもへ、わがかくいへるはトスカーナの民の禍ひの種なりき
 この時我は詞を添へて、また、汝の宗族の死なりきといふ、こゝにおいて憂へ憂ひに加はり、彼は悲しみ狂へる人の如く去れり
 されど我はなほ群をみんとてとゞまり、こゝに一のものをみたりき、若しほかに證あかしなくさりとて良心
 (自ら罪なしと思ふ思ひを鎧として人に恐るゝことなからしむる善き友)の我をつよくするあらずば、我は語るをさへおそれしなるべし
 げに我は首なき一の體の悲しき群にまじりてその行くごとくゆくを見たりき、また我いまもこれをみるに似たり
 この者切られし首の髮をとらへてあたかも提燈の如く之をおのが手に吊せり、首は我等を見てあゝあゝといふ
 體は己のために己を燈となせるなり、彼等は二にて一、一にて二なりき、かゝる事のいかであるやはかく定むるもの知りたまふ
 まさしく橋下に來れる時、この者その言の我等に近からんため腕を首と共に高く上げたり
 さてその言にいふ、氣息をつきつゝ死者を見つゝゆく者よ、いざこの心憂き罰を見よ、かく重きものほかにもあるや否やを見よ
 また汝わが消息をもたらすをえんため、我はベルトラム・ダル・ボルニオとて若き王に惡を勸めし者なるをしるべし
 乃ち我は父と子とを互に背くにいたらしめしなり、アーキトフェルがアブサロネをよからぬ道に唆かしてダヴィーデに背かしめしも
 この上にはいでじ、かくあへる人と人とを分てるによりて、わが腦はあはれこの體の中なるその根元より分たれ、しかして我これを携ふ
 應報の律乃ち斯くの如くわが身に行はる(地獄篇第二十八曲から、山川丙三郎訳))

右端の両腕の先がないものがモスカ、左手で首を捧げもっているのがベルトラム・ダル・ボルニオ。刃を振るう悪鬼は、背中を見せている。





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