ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵 |
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猛火をくぐったところで日が沈んだ。日没を過ぎたら歩くことは出来ぬという煉獄の掟に従い、三人はそれぞれ石段の上に横になった。眠りの中でダンテは、リーアとラケールの姉妹が出てくる夢を見る。彼女らは、ダンテが煉獄山の頂上に近づいているのを祝福しているようであった。 ダンテが眠りから覚めると、ヴィルジリオとスターツィオは既に起きていた。三人は足取りも軽く石段を登ってゆく。そして最上段についたときに、ヴィルジリオがダンテに向かって宣言する。ここまでで自分の導者としての役目は終わった。あとはダンテが自分自身を導者として進みなさいと。 路直く岩を穿ちて東の方に上るがゆゑに、すでに低き日の光を我はわが前より奪へり しかしてわが影消ゆるを見て我もわが聖等も我等の後方に日の沈むをしりたる時は、我等の試みし段なほ未だ多からざりき はてしなく濶き天涯未だ擧りて一の色とならず、夜その闇をことごとく頒ち與へざるまに 我等各一の段を床となしぬ、そはこの山の性、登るの願ひよりもその力を我等より奪へばなり 食物をえざるさきには峰の上に馳せ狂へる山羊も、日のいと熱き間蔭にやすみて聲をもいださず その牧者(彼杖にもたれ、もたれつゝその群を牧ふ)にまもられておとなしく倒嚼むことあり また外に宿る牧人、そのしづかなる群のあたりに夜を過して、野の獸のこれを散らすを防ぐことあり 我等みたりもまたみな斯の如くなりき、我は山羊に彼等は牧者に似たり、しかして高き岩左右より我等をかこめり 外はたゞ少しく見ゆるのみなりしかど、我はこの少許の處に、常よりも燦かにしてかつ大なる星を見き 我かく倒嚼み、かく星をながめつゝ睡りに襲はる、即ち事をそのいまだ出來ぬさきにに屡々告知らす睡りなり ・・・ はや四方より闇を逐ひ、闇とともにわが睡りを逐へり、我即ち身を起せば、ふたりの大いなる師この時既に起きゐたり げに多くの枝によりて人のしきりに尋ね求むる甘き果は今日汝の饑ゑをしづめむ。 ヴィルジリオかく我にいへり、またこれらの語のごとく心に適ふ賜はあらじ わが登るの願ひ願ひに加はり、我はこの後一足毎に羽生えいでて我に飛ばしむるをおぼえき 我等階をことごとく渡り終りて最高き段の上に立ちしとき、ヴィルジリオ我にその目をそゝぎて いふ。子よ、汝既に一時の火と永久の火とを見てわが自から知らざるところに來れるなり われ智と術をもて汝をこゝにみちびけり、今より汝は好む所を導者となすべし、汝嶮しき路を出で狹き路をはなる 汝の額を照す日を見よ、地のおのづからこゝに生ずる若草と花と木とを見よ 涙を流して汝の許に我を遣はせし美しき目のよろこびて來るまで、汝坐するもよし、これらの間を行くもよし わが言をも表示をもこの後望み待つことなかれ、汝の意志は自由にして直く健全なればそのむかふがまゝに行はざれば誤らむ 是故にわれ冠と帽を汝に戴かせ、汝を己が主たらしむ。 絵は、煉獄山の頂上近くの石段に横たわるダンテたち一行。真ん中で身を横たえているのがダンテだろう。 |
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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2016 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |