ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵
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キリストをたたえるダンテ:ブレイクの「神曲」への挿絵



ダンテの天国のイメージは、当時のヨーロッパ人の抱いていた天体のイメージを反映している。天体が地球を中心にして、惑星圏と恒星圏からなっているのと並行するように、天国も月、水星、金星、太陽、火星、木星、土星それぞれの惑星天及びその外側に広がる広大な恒星天からなり、恒星天の更に外側に至高天があると考えていた。

それ故ダンテの天国遍歴も、月天から始まり、いくつかの惑星天を経て恒星天に移行し、最後には神の鎮座すると思われている至高天に達するというようにイメージされる。

煉獄の最終地点でベアトリーチェに迎えられたダンテは、そこで指導者ヴィルジリオと別れ、ベアトリーチェに導かれながら、天国を経巡ってゆく。

天国編も煉獄編やその前の地獄編同様33曲からなっているが、ダンテはそれに対して9枚の絵しか描かなかった。おそらく老いと病のために、それぞれの天体に対応する絵を描くだけの余裕がなかったのだと思われる。

天国編の最初の一枚は、第十四曲に対応している。ダンテはベアトリーチェに導かれて火星天に上り、そこで炎に包まれたキリストのイメージを見る。


 我心を盡し、萬人のひとしく用ゐる言葉にて、この新なる恩惠に適ふさはしき燔祭を神に獻さゝげ
 しかして供物の火未だわが胸の中に盡きざるさきに、我はこの獻物の嘉納せられしことを知りたり 
 そは多くの輝二の光線の中にて我に現はれ、あゝかくかれらを飾るエリオスよとわがいへるほど燦にかつ赤かりければなり
 たとへば銀河が、大小さまざまの光を列ねて宇宙の兩極の間に白み、いと賢き者にさへ疑ひをいだかしむるごとく
 かの光線は、星座となりつゝ、火星の深處に、象限相結びて圓の中に造るその貴き標識をつくれり 
 さて茲に到りてわが記憶才に勝つ、そはかの十字架の上にクリスト煌き給ひしかど我は適はしき譬を得るをえざればなり 
 されど己が十字架をとりてクリストに從ふ者は、いつかかの光明の中に閃くクリストを見てわがかく省くを責めざるならむ 
 桁より桁にまた頂と脚との間に諸の光動き、相會ふ時にも過ぐるときにもかれらは強くきらめけり 
 己を護らんため智と技わざとをもて人々の作る陰を分けつゝをりふし條を引く光の中に、長き短き極微の物體 
 或ひは直く或ひは曲み、或ひは疾く或ひは遲く、たえずその容を變へて動くさままたかくの如し 
 また譬へば多くの絃にて調子べを合せし琵琶や琴が、節を知らざる者にさへ、鼓音ひくね妙にきこゆるごとく
 かしこに顯はれし諸の光より一のうるはしき音十字架の上にあつまり、歌を解しえざりし我もこれに心を奪はれき 
 されど我よくそが尊き讚美なるを知りたり、そは起たちて勝てといふ詞、解せざれどなは聞く人に聞ゆる如く、我に聞えたればなり 
 わが愛これに燃やされしこといかばかりぞや、げに是時にいたるまで、かくうるはしき絆をもて我を繋げるもの一だになし
 恐らくはわがこの言、かの美しき目(これを視ればわが願ひ安んず)の與ふる樂をかろんじ、餘りに輕率なりと見えむ 
 されど人もし一切の美を捺す諸の生くる印がその高きに從つて愈強く働く事と、わが未だ彼處にてかの目に向はざりし事とを思はゞ 
 わが辯解らかんため自ら責むるその事をもて我を責めず、かつわが眞を告ぐるを見む、そはかの聖なる樂しみをわれ今除きていへるに非ず 
 これまたその登るに從つていよいよ清くなればなり(天堂編第十四曲から、山川丙三郎訳)


絵は、炎に包まれながら自ら十字架の形をとったキリスト。本文では、聖人や殉教者たちの霊が十字架の形をなしているとされるが、ブレイクはキリスト自身に十字架の形をとらせた。





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