ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵
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記録の天使:ブレイクの「神曲」への挿絵



天国編の挿絵の第二枚目は、第十九曲に対応している。ベアトリーチェとともに木星天に上ったダンテはそこで、地上で正義を実践した例たちが鷲の姿を取ってダンテらの前に現れ、ダンテの質問、それはキリストの出現以前に生きた人々が何故天国へ行けないのか、という素朴な質問であったが、その質問に答える。そして、人間の過去の歴史において、不正を働いたものどもの行為をあげ、それを糾弾する。

ブレイクは、この部分をイメージにあらわしたわけだが、原文では鷲の姿をしたものが語っているところを、記録の天使が人間の行為を記録していたというふうに変えて、イメージ化した。


 そこにはアルベルトの行爲の中、ほどなく筆を運ばしむる事見ゆべし、その行爲によりてプラーガの王國の荒らさるゝこと即ち是なり 
 そこには猪に衝かれて死すべき者が、貨幣の模擬を造りつゝ、センナの邊りに齎すところの患見ゆべし
 そこにはかのスコットランド人とイギリス人とを狂はし、そのいづれをも己が境の内に止まる能はざらしむる傲慢(渇かわきを起す)見ゆべし 
 スパニアの王とボエムメの王(この人嘗かつて徳を知らずまた求めしこともなし)との淫樂と懦弱の生活と見ゆべし 
 イエルサレムメの跛者の善は一のIにて記しるされ、一のMはその惡の記號となりて見ゆべし 
 アンキーゼが長生を畢へし處なる火の島を治むる者の強慾と怯懦と見ゆべし 
 またかれのいみじき小人なるをさとらせんため、その記録には略字を用ゐて、些の場所に多くの事を言現はさむ 
 またいと秀いづる家系と二の冠とを辱めたるその叔父と兄弟との惡しき行は何人にも明らかなるべし 
 またポルトガルロの王とノルヴェジアの王とはかの書によりて知らるべし、ヴェネージアの貨幣を見て禍ひを招けるラシアの王また然り(「天堂編」第十九曲から、山川丙三郎訳) 


絵は、記録の天使が光背を従えた姿で椅子に座り、その膝の上に書物をのせて、そこに歴史の出来事を記録するさまを描く。上の文中、そこには、とあるのは、その書物には、という意味である。その書物をブレイクの絵では、記録の天使が持っているわけである。





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