ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵
HOMEブログ本館美術批評東京を描く動物写真英詩と英文学西洋哲学 プロフィール掲示板




カロンと呪われた霊魂たち:ブレイクの「神曲」への挿絵



ダンテらは亡霊たちとともに渡し船に乗る。カロンは亡霊に向って櫂を振り回し、自分のいうことを聞かせようとする。その様子を見ていたダンテは、恐ろしさの余りに身に汗し、ついには意識を失ってしまう


 この時目のまはりに炎の輪ある淡黒き沼なる舟師の鬚多き頬はしづまりぬ
 されどよわれる裸なる魂等はかの非情の言をきゝて、たちまち色をかへ齒をかみあわせ
 神、親、人およびその蒔かれその生れし處と時と種とを誹れり
 かくて彼等みないたく泣き、すべて神をおそれざる人を待つ禍ひの岸に寄りつどへり
 目は熾火のごとくなる鬼のカロン、その意を示してみな彼等を集め、後るゝ者あれば櫂にて打てり
 たとへば秋の木の葉の一葉散りまた一葉ちり、枝はその衣を殘りなく地にをさむるにいたるがごとく
 アダモの惡しき裔は示しにしたがひ、あひついで水際をくだり、さながら呼ばるゝ鳥に似たり
 かくして彼等黯める波を越えゆき、いまだかなたに下立たぬまにこなたには既にあらたに集まれる群あり
 志厚き師曰ひけるは、わが子よ、神の怒りのうちに死せるもの萬國より來りてみなこゝに集ふ
 その川を渡るをいそぐは神の義これをむちうちて恐れを願ひにかはらしむればなり
 善き魂この處を過ぐることなし、さればカロン汝にむかひてつぶやくとも、汝いまその言の意義をしるをえん
 いひ終れる時黒暗の廣野はげしくゆらげり、げにそのおそろしさを思ひいづればいまなほわが身汗にひたる
 涙の地風をおこし、風は紅の光をひらめかしてすべてわが官能をうばひ
 我は睡りにとらはれし人の如く倒れき(地獄篇第三曲から、山川丙三郎訳)


絵は、渡守カロンが櫂を振り回して亡者たちを威嚇するところを描く。ダンテとヴィルジリオは、背後のやや小高い丘の上に立っているところが描かれている。





HOME神曲への挿絵次へ









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2016
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである