ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵
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ミノス:ブレイクの「神曲」への挿絵



ダンテとヴィルジリオは、第一圏から第二圏へと降りてゆく。第二圏は、自分の意思でキリストの教えに背いた者たちが落ちてゆく最初の圏である。その入り口にはミノスと言う怪物が居座っていて、落ちてきた亡者たちに、それぞれ相応しい場所を割り当てる。

ダンテたちを見たミノスは、ここはお前たちの来るところではないと、彼らを追い返そうとするが、ヴィルジリオがミノスを一括し、二人は第二圏の中へと入ってゆく。

ミノスは、ギリシャ神話に出てくる怪物で、クレタ島の王ということになっているが、ここでは地獄の獄卒の一人として描かれているわけである。


 斯く我は第一の獄より第二の獄に下れり、是は彼よりをさむる地少なく苦患ははるかに大いにして突いて叫喚を擧げしむ
 こゝにミノス恐ろしきさまにて立ち、齒をかみあはせ、入る者あれば罪業を糺し刑罰を定め身を卷きて送る
 すなはち幸なく世に出でし魂その前に來れば一切を告白し、罪を定むる者は 
 地獄の何處のこれに適しきやをはかり、送らむとする獄の數にしたがひ尾をもて幾度も身をめぐらしむ
 彼の前には常に多くの者の立つあり、かはるがはる出でゝ審判をうけ、陳べ、聞きて後下に投げらる
 ミノス我を見し時、かく重き任務を棄てゝ我にいひけるは、憂ひの客舍に來れる者よ
 汝みだりに入るなかれ、身を何者に委ぬるや思ひ見よ、入口ひろきによりて欺かるるなかれ、わが導者彼に、汝何ぞまた叫ぶや
 彼定命に從ひてゆく、之を妨ぐる勿れ、思ひ定めたる事を凡て行ふ能力あるところにてかく思ひ定められしなり、汝また問ふこと勿れ
 苦患なやみの調しらべはこの時あらたに我にきこゆ、我はこの時多くの歎聲なげきの我を打つところにいたれり 
 わがいたれる處には一切の光默もだし、その鳴ることたとへば異なる風に攻められ波たちさわぐ海の如し 
 小止をやみなき地獄の烈風吹き荒れて魂を漂はし、旋めぐりまた打ちてかれらをなやましむ 
 かれら荒ぶる勢ひにあたれば、そこに叫びあり、憂ひあり、歎きあり、また神の權能ちからを誹る言ことばあり 
 我はさとりぬ、かゝる苛責の罰をうくるは、理性を慾の役えきとなせし肉の罪人つみびとなることを 
 たとへば寒き時椋鳥むくどり翼に支へられ、大いなる隙すきなき群をつくりて浮び漂ふごとく、風惡靈を漂はし 
 こゝまたかしこ下また上に吹送り、身をやすめまたは痛みをかろむべき望みのその心を慰むることたえてなし 
 またたとへば群鶴むらづるの一線長く空そらに劃し、哀歌をうたひつゝゆくごとく、我は哀愁の聲をあげ 
 かの暴風はやちに負おはれて來る魂を見き、すなはちいふ、師よ、黒き風にかく懲さるゝ此等の民は誰なりや 
 この時彼我にいふ、汝が知るをねがふこれらの者のうち最初はじめなるは多くの語ことばの皇后きさいなりき (地獄篇第五曲から、山川丙三郎訳)


この後皇后セミラミスを始めとして、クレオパトラ、パリス、トリスターノなど愛欲に溺れた者たちの事が語られる。地獄の第二圏は、これら愛欲に溺れた者たちが落されるところなのである。

絵は、中央にミノス、そのまわりに愛欲におぼれた人々が、地獄の熱風に吹かれて苦悩するさまを描く。





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