ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵
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聖物を売買する教皇:ブレイクの「神曲」への挿絵



マレボルジャの第三嚢は、聖物売買者たちの閉じ込められているところ。そこには、穴の開いた大きな石が至る所にあって、その穴の中に人間が逆さまに差し込まれている。そのため、石の上に覗いているのはふくらはぎばかり。それらは燃え盛る炎に焼かれている。そうした人間の一人がダンテの眼をひいたので、彼が誰であるかヴィルジリオに聞いたところ、ヴィルジリオは自分でその名を確かめろと言って、ダンテを抱きかかえてその人間の所に連れてゆく。

 あゝシモン・マーゴよ、幸なき從者よ、汝等は貪りて金銀のために、徳の新婦となるべき
 神の物を穢れしむ、今喇叭は汝等のために吹かるべし、汝等第三の嚢にあればなり
 我等はこの時石橋の次の頂まさしく濠の眞中にあたれるところに登れり
 あゝ比類なき智慧よ、天に地にまた禍ひの世に示す汝の技大いなるかな、汝の權威の頒ち與ふるさまは公平なるかな
 こゝに我見しに側にも底にも黒める石一面に穴ありて大きさ皆同じくかついづれも圓かりき
 思ふにこれらは授洗者の場所としてわが美しき聖ジョヴァンニの中に造られしもの(未だ幾年ならぬさき我その一を碎けることあり
 こはこの中にて息絶えんとせし者ありし爲なりき、さればこの言證となりて人の誤りを解け)より狹くも大きくもあらざりしなるべし
 いづれの穴の口よりも、ひとりの罪ある者の足およびその脛腓まであらはれ、ほかはみな内にあり
 二の蹠火に燃えて關節これがために震ひ動き、そのはげしさは綱をも組緒をも斷切るばかりなりき
 油ひきたる物燃ゆれば炎はたゞその表面をのみ駛するを常とす、かの踵より尖にいたるまでまた斯くの如くなりき
 我曰ふ、師よ、同囚の誰よりも劇しく振り動かして怒りをあらはし猛き炎に舐らるる者は誰ぞや
 彼我に、わが汝をいだいて岸の低きをくだるを願はゞ汝は彼によりて彼と彼の罪とを知るをうべし
 我、汝の好むところみな我に好し、汝は主なり、わが汝の意に違ふなきを知り、またわが默して言はざるものを知る
 かくて我等は第四の堤にゆき、折れて左にくだり、穴多き狹き底にいたれり
 善き師は我をかの脛にて歎けるものゝ罅裂あるところに着かしむるまでその腰よりおろすことなかりき 
 我曰ふ、悲しめる魂よ、杙の如く插されて逆さなる者よ、汝誰なりとももしかなはば言を出せ(地獄篇第十九歌から、山川丙三郎訳) 

このあとダンテが逆さになった人間に名を聞くと、教皇ニコラウス三世だと暗に名乗る。彼は、職権を乱用して私益を図った咎で、ここに落されたのだった。

絵は、ヴィルジリオに抱きかかえられて、ニコラウス三世に近づくダンテ。なお、文中シモン・マーゴとあるのは、サマリアの女魔術師。彼女は、聖物を金で売買しようとしたことで、使徒たちから厳しく弾劾された。聖物売買のことをシモニアと呼ぶのは、彼女の行為に基づいている。





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