ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵
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船で亡霊を煉獄に届ける天使:ブレイクの「神曲」への挿絵



ダンテとヴィルジリオが汀に佇んでいると、西の水平線の彼方から何かが勢いよく近づいてくる。よく見るとそれは、地上の死者たちの霊を煉獄へ運ぶための船だった。その船は天使が操縦しているが、彼は櫂で船を漕ぐのではなく、自分の羽をはばたかせて船を進めるのだった。それ故、船はすさまじい速さで進むわけなのである。

その船は、ダンテらのいる汀に近づくと、乗せていた霊たちをそこにおろし、もと来た道を去ってゆく。この船は、地上のテーヴェレ川の河口でこれらの霊を詰め込み、煉獄山の麓まで直行してきたのだ。ここで下された霊魂たちは、自分たちの生前の行いに応じて、煉獄山のいづれかの冠に行くことになる。彼らの生前の行いは、七つの大罪のいづれかに分類され、それらのために割り当てられた冠に行くのが彼らに課された定めなのである。


 我等はあたかも路のことをおもひて心進めど身止まる人の如くなほ海のほとりにゐたるに 
 見よ、朝近きとき、わたつみの床の上西の方低きところに、濃き霧の中より火星の紅くかゞやくごとく 
 わが目に見えし一の光(あゝ我再びこれをみるをえんことを)海を傳ひていと疾く來れり、げにいかなる羽といふとも斯許早きはあらじ 
 われわが導者に問はんとて、しばらく目をこれより離し、後再びこれをみれば今はいよいよ燦かにかついよいよく大いなりき 
 その左右には何にかあらむ白き物見え、下よりもまた次第に白き物いでぬ 
 わが師なほ物言はざりしが、はじめの白き物翼とみゆるにいたるにおよび、舟子の誰なるをさだかに知りて 
 さけびていふ。いざとく跪き手を合すべし、見よこれ神の使者なり、今より後汝かかる使者等をみむ 
 見よかれ人の器具をかろんじ、かく隔たれる二の岸の間にも、擢を用ゐず翼を帆に代ふ 
 見よ彼これを伸べて天にむかはせ、朽つべき毛の如く變ることなきその永遠の羽をもて大氣を動かす。 
 神の鳥こなたにちかづくに從ひそのさまいよいよあざやかになりて近くこれを見るにたへねば 
 われ目を垂れぬ、彼は疾く輕くして少しも水に呑まれざる一の舟にて岸に着けり 
 艫には天の舟人立ち(福《さいはひ》その姿にかきしるさるゝごとくみゆ)、中には百餘の靈坐せり 
 イスラエル、エヂプトを出でし時、彼等みな聲をあはせてかくうたひ、かの聖歌に録されし殘りの詞をうたひをはれば 
 彼は彼等のために聖十字を截りぬ、彼等即ち皆汀におりたち、彼はその來れる時の如くとく去れり(煉獄篇第二曲から、山川丙三郎訳) 


絵は、霊たちを煉獄山の麓に下して去ってゆく船とそれを操る天使を描く。この後、霊たちのなかに知り合いのフィレンツェ人カゼッラを認めたダンテは、彼に話しかけ、歌を歌ってくれるよう懇願する。カゼッラはダンテの願いに答えて、故郷を思い出させる懐かしい歌を歌う。するとそこへ小カトーが現れて、ぐずぐずしておらずにただちに煉獄山に登るよう皆を急き立てる。





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