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ーウィリアム・ブレイクの詩とイラストの世界ー

 迷える少女(ブレイク詩集:経験の歌)


  未来の子どもたちは
  憤然たるこの詩を読み
  昔には愛することでさえも
  罪だったと知るだろう

  黄金の時代にあって
  冬の寒さをも知らず
  輝ける少年少女は
  聖なる光を浴びて
  裸で戯れていたものだ

  あるとき少年と少女が
  そっと用心しながら
  楽園の中で出会った
  そこは聖なる光が
  夜の帳を吹き払っていた

  朝日を浴びながら 二人は
  草の上で戯れ遊んだ
  父さんや母さんははるか遠く
  知らない人に見られることもない
  少女はすっかり安心した

  二人は甘いキスに飽き足らず
  ついに肉の交わりを結んだ
  静かな眠りがやってきて
  深い宵闇に漂う中
  物憂くも疲れた二人は泣く

  少女がお父さんのところに戻ると
  愛するお父さんの顔は
  聖書の本のように見えた
  それが少女をおびえさせた

  青ざめて弱々しいオーナよ!
  お父さんに真実を話しなさい
  ―ああ、震える恐れ
  惨めな気遣いが
  私の髪を白くしてしまったの
  

「迷える少女」と題するこの詩は、「エデンの園」の話をブレイク流に解釈しなおしたものだ。「エデンの園」においては、アダムとイヴは禁断の木の実を食べたことで、楽園から追放されるが、この詩では少年少女は、自分たちの自然の愛を罰せられるのである。

少年と少女は、始めから出会いに臆病になっている。両親や他人の目を気にしながらあわなければならない。そして彼らの愛の行為は、夜の闇の中でしかなされえない。

少女は父親の顔を見て、そこに聖書の教えを読み取ると、自分の罪深さを自覚せざるを得ないのだ。その余りに、美しい髪は白くなってしまう。

この詩の中で、ブレイクは同時代において支配的であった、愛の抑圧を指弾している。冒頭の節は、この抑圧の不可解さについて語ったものだ。




A Little Girl Lost William Blake

  Children of the future Age,
  Reading this indignant page:
  Know that in a former time,
  Love! sweet Love! was thought a crime

  In the Age of Gold,
  Free from winters cold:
  Youth and maiden bright,
  To the holy light,
  Naked in the sunny beams delight

  Once a youthful pair
  Fill'd with softest care:
  Met in garden bright,
  Where the holy light,
  Had just removd the curtains of the night

  There in rising day,
  On the grass they play:
  Parents were afar:
  Strangers came not near her fear.
  And the maiden soon forgot

  Tired with kisses sweet
  They agree to meet,
  When the silent sleep
  Waves o'er heavens deep;
  And the weary tired wanderers weep.

  To her father white
  Came the maiden bright: But his loving look,
  Like the holy book,
  All her tender limbs with terror shook.

  Ona! pale and weak!
  To thy father speak:
  O the trembling fear!
  O the dismal care!
  That shakes the blossoms of my hoary hair

  

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