ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵 |
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ダンテとヴィルジリオがステュクスを船で渡ってディーテの町の門前に至ると、そこにはさまざまな怪物が待ち構えていて彼らを追い払おうとする。さすがのヴィルジリオも、これまでのように、彼らを脅かして無理に入ることができないでいる。怪物のなかでも手ごわく見えたのは、復讐の三女神エリニュス、その姿を目にしたものを石に変えてしまうというメドューサ、そして見た者を永遠に地獄へ閉じ込めるというゴルゴンなどであった。 二人が門の前でたじろいでいると、一人の天使がステュクスを渡ってやって来た。彼らのために門を開けさせる使命を負った天使である。 忽ちこゝに血に染みていと凄き三のフーリエ時齊しくあらはれいでぬ、身も動作も女性のごとく いと濃き緑の水蛇を帶とす、小蛇チェラスタ髮に代りてその猛き後額を卷けり この時かれ善くかぎりなき歎きの女王の侍婢を認めて我にいひけるは、兇猛なるエーリネを見よ 左なるはメジェラ右に歎くはアレットなり、テシフォネ中にあり、斯く言ひて默せり 彼等各々爪をもておのが胸を裂き掌をもておのが身を打てり、その叫びいと高ければ我は恐れて詩人によりそひき 俯き窺ひつゝみないひけるは、メヅーサを來らせよ、かくして彼を石となさん、我等テゼオに襲はれて怨みを報いざりし幸なさよ 身をめぐらし後むかひて目を閉ぢよ、若しゴルゴンあらはれ、汝これを見ば、再び上に歸らんすべなし 師はかくいひて自らわが身を背かしめ、またわが手を危ぶみ、おのが手をもてわが目を蔽へり あゝまことの聰明あるものよ、奇しき詩のかげにかくるゝをしへを見よ この時既にすさまじく犇めく物音濁れる波を傳ひ來りて兩岸これがために震へり こはあたかも反する熱によりて荒れ、林を打ちて支ふるものなく、枝を折り裂き うち落し吹きおくり、塵を滿たしてまたほこりかに吹き進み、獸と牧者を走らしむる風の響きのごとくなりき かれ手を放ちていひけるは、いざ目をかの年へし水沫《みなわ》にそゝげ、かなた烟のいと深きあたりに たとへば敵なる蛇におどろき、群居る蛙みな水に沈みて消え、地に蹲まるにいたるごとく 我は一者の前を走れる千餘の滅亡の魂をみき、この者徒歩にてスティージェを渡るにその蹠濡るゝことなし かれはしばしば左手をのべて顏のあたりの霧をはらへり、その疲れし如くなりしはたゞこの累ありしためのみ 我は彼が天より遣はされし者なるをさだかに知りて師にむかへるに、師は我に示して口を噤ましめ、また身をその前にかゞめしむ 右側にディーテの街の門が小さく画かれ、その前にダンテとヴィルジリオが佇んでいる。天使は一番左側に、走っている姿で描かれている。その天使を包み込むようにして湧きたっているのはつむじ風か。 |
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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2016 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |