ブレイクのダンテ「神曲」への挿絵 |
HOME|ブログ本館|美術批評|東京を描く|動物写真|英詩と英文学|西洋哲学 |プロフィール|掲示板 |
![]() |
ダンテとヴィルジリオは険しい岩を登り、次の橋の閘門をわたって第八の嚢に踏みこむ。すると、嚢の地底に沿って、巨大な炎の玉が過ぎてゆくのが見える。その一つにダンテらは目を留める。その炎の玉の中には、ギリシャの英雄ユリシーズとディオゲネスが包まれていたのである。 その炎の中のユリシーズに向かって、ヴィルジリオが、あの最後の航海のことを語るように促す。その言葉に答えて、ヴィルジリオは最後の航海の様子を語って聞かせる。 我は見んとて身を伸べて橋の上に立てり、さればもし一の大岩をとらへざりせば押さるゝをもまたで落ち下れるなるべし 導者はわがかく心をとむるをみていひけるは、火の中に魂あり、いづれも己を燒くものに卷かる 我答へて曰ひけるは、わが師よ、汝の言によりてこの事いよいいよさだかになりぬ、されど我またかくおしはかりて既に汝に エテオクレとその兄弟との荼毘の炎の如く上方わかれたる火につゝまれてこなたに來るは誰なりやといはんとおもひたりしなり 彼答へて我に曰ふ、かしこに苛責せらるゝはウリッセとディオメーデなり、ともに怒りにむかへるごとくまたともに罰にむかふ かの焔の中に、彼等は門を作りてローマ人のたふとき祖先をこゝよりいでしめし馬の伏勢を傷み かしこにアキルレのためにいまなほデイダーミアを歎くにいたらしめし詭計をうれへ、またかしこにパルラーディオの罰をうく 我曰ふ、彼等かの火花のなかにて物言ふをえば、師よ、我ひたすらに汝に請ひまた重ねて汝に請ふ、さればこの請ひ千度の請ひを兼ねて 汝は我に角ある焔のこゝに來るを待つを否むなかれ、我わが願ひのためにみたまふ如く身をかなたにまぐ 彼我に、汝の請ふところ甚だ善し、この故に我これを容る、たゞ汝舌を愼しめ 我既に汝の願ひをさとりたれば語ることをば我に任せよ、そは彼等はギリシア人なりしがゆゑに恐らくは汝の言を侮るべければなり 焔近づくにおよびて導者は時と處をはかり、これにむかひていひけるは あゝ汝等二の身にて一の火の中にあるものよ、我生ける時汝等の心に適ひ、高き調を世に録して たとひいさゝかなりとも汝等の心に適へる事あらば、請ふ過ぎゆかず、汝等の中ひとり路を失ひて後いづこに死處をえしやを告げよ(地獄編第廿六曲から、山川丙三郎訳)) 絵は、燃え盛る炎の上を、炎の玉に包まれて浮かび行くユリシーズらと、それを見下ろすダンテとヴィルジリオを描く。 |
HOME|神曲への挿絵|次へ |
作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2016 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |